私が基本間取りプランを提案させていただいたM様邸が、いよいよ完成しました。
M様邸は、西側道路に面し、東側には石神井川緑道公園が広がる立地です。
この土地を見たときに、まず思ったのは、
「玄関を開けた瞬間に、奥の緑道まで視線が抜ける家にしたい」
ということでした。
せっかく東側に石神井川緑道の緑があるのに、それを家の中から感じられない間取りではもったいない。
そこで、玄関から奥へ視線が通るようにし、さらに階段を緑道側に配置することで、玄関ホールに開放感が生まれるように考えました。
こちらは、当初私が描いたスケッチです。
玄関ドアを開けると、正面に緑道の気配が感じられる。
そして、階段はできるだけ軽やかに見せるため、スケルトン階段をイメージしていました。
スケルトン階段にすることで、階段そのものが視線を遮らず、玄関から奥へと空間が抜けていきます。
家に入った瞬間に、
「おっ、気持ちいい家だな」
と感じてもらえるような玄関ホールにしたかったのです。
手書きのスケッチをもとに、玄関ドアを開けた正面に大谷石を張ったデザインをCGで作成しました。
右側の壁一面に大谷石を張ることで、玄関に入った瞬間の印象がぐっと引き締まります。
大谷石は、石の表情がやわらかく、照明が当たると陰影が出て、とても雰囲気のある素材です。
ただ白い壁にするのではなく、自然素材の質感を加えることで、玄関ホール全体に落ち着きと上質感が生まれます。
玄関から奥の緑道まで視線が抜ける。階段越しに光が入り、奥行きが感じられる。
そんな空間をイメージしました。
ただ、完全なスケルトン階段は、どうしても予算が上がります。
また、施工の難易度も高くなります。
そこで、階段の計画を見直し、約1.5帖の踊り場のあるデザインに変更して再提案しました。
この変更は、単なるコスト調整ではありません。
階段の軽やかさや開放感はできるだけ残しながら、踊り場そのものがひとつの居場所になるように考えました。
このデザインをM様は非常に気に入ってくださり、そのまま採用していただきました。
そして、実際に完成した玄関ホールがこちらです。
玄関を開けると、奥の窓まで視線が抜け、その先には石神井川緑道の緑が見えます。
右側の壁は、当初CGでご提案していた大谷石風のイメージから、イタリアの天然石・チェポストーンへと変更しました。
照明の光が石の表情をやわらかく照らし、玄関でありながら、少しギャラリーのような雰囲気もあります。
玄関は、家の第一印象を決める場所です。
打ち合わせのとき、ご主人様がこんなことをおっしゃっていました。
「玄関ドアを開けたときに、あーやっぱりこの家いいよね、と思える空間にしたい」
ただ靴を脱ぐ場所として考えるのではなく、毎日帰ってきたときに、
「ただいま」と、ほっとできる。
そんな場所にしたい。
ご主人様のそのイメージを大切にしながら計画しました。
2階へ上がると、正面にはⅡ型のオープンキッチンがあります。
このキッチンも、ただ見た目の良さだけで配置したわけではありません。
キッチンに立つと、階段越しに石神井川緑道の木々が見えるように計画しました。
料理をしているとき。洗い物をしているとき。
ふと顔を上げると、窓の外に緑が見える。
家の中にいながら、外の景色を感じられる場所にしたかったのです。
M様邸では、LDKの中央にキッチンを配置しています。
そのため、ダイニング、リビング、小上がりの畳コーナーなど、家族がどこにいても、キッチンに立つお母さんの気配が感じられる間取りになっています。
家事をしている人だけが、家族から少し離れた場所で作業をするのではなく、
そんな暮らし方をイメージして、この配置をご提案しました。
黒を基調にしたキッチンと、板の濃淡差が美しいレッドシダー張りの天井。
床の木の表情ともよく合っていて、落ち着きのある、とても雰囲気のいいLDKになりました。
今回の階段には、約1.5帖の踊り場があります。
一般住宅で踊り場を1.5帖もとるというのは、かなり思い切った設計です。
でも、1.5帖ほどの広さがあるので、ちょっと腰を下ろすこともできますし、ごろっと寝転がることもできます。
窓の外には、石神井川緑道の小川と緑。
忙しい毎日の中で、少しだけ力を抜いて、ぼんやり外を眺める。
そんな時間が生まれる場所になればいいなと思って提案しました。
家の中には、リビングや寝室のように名前のついた部屋だけでなく、こうした「なんとなく居たくなる場所」があると、暮らしが少し豊かになります。
階段の途中にある小さな余白ですが、M様邸ではとても大切な場所のひとつになると思います。
M様邸の魅力は、やはり石神井川緑道の緑を家の中から楽しめることです。
窓の外に見える緑や小川は、自分の敷地ではありません。
でも、窓の取り方や階段の配置、視線の抜け方を工夫することで、暮らしの中に自然を取り込むことができます。
不動産は、土地の広さや建物面積、駅距離だけで判断されがちです。
もちろん、それらも大切です。
でも、実際に暮らしたときの気持ちよさは、数字だけでは分かりません。
どこに窓を取るのか。
どこに階段を置くのか。
どこに立ったときに、何が見えるのか。
そうした小さな積み重ねで、家の印象は大きく変わります。
M様邸では、見た目だけでなく、暮らしてからの使い勝手にもこだわりました。
トイレは、奥の壁を少し手前に出した設計にしています。
こうすることで、壁の奥側に奥行きのある収納スペースが生まれます。
トイレットペーパーや掃除道具など、トイレに置きたいものは意外と多いものです。
でも、見える場所に置くと生活感が出てしまう。
壁の厚みを利用した収納にすれば、必要なものをすっきりしまっておけます。
手前に出した壁面にはアクセントクロスを張り、トイレに入ったときの目線の先がぐっと印象的になるようにしました。
機能性とデザインの両立。
壁を出すという小さな工夫ですが、暮らしの満足度は大きく変わります。
そしてもうひとつ、お風呂の給湯器リモコンの位置です。
一般的には、給湯器のリモコンは浴室内の壁に設置されることが多いと思います。
でも、浴室の中にリモコンがあると、毎日のように水しぶきや湯気にさらされ、操作ボタンの隙間に水垢や石鹸カスが溜まりやすくなります。
浴室内のリモコンは、意外と掃除が面倒。
そこでM様邸では、給湯器のリモコンを脱衣室側に出しました。
浴槽にお湯を張るときも、追い焚きをするときも、脱衣室から操作できます。
浴室内には水滴がかかる機器が減るので、掃除の手間がぐっと減ります。
リモコン本体の劣化も抑えられます。
毎日のことだからこそ、こうした小さな工夫が積み重なって、暮らしやすさを支えてくれます。
LDKの一角には、小上がりの畳コーナーをつくりました。
緑道側の壁には窓を2か所とり、その下に長いカウンターを造作しています。
ここは、お子さまが勉強をしたり、ご主人様や奥様がちょっとした書きものや作業をしたりする場所として計画しました。
この窓の高さには、実は意図があります。
カウンターに座って窓を見上げると、空しか見えない。
あえて窓の位置を高めに設定することで、座ったときの目線の先には、隣家の壁や道路ではなく、空だけが切り取られて見えるようにしています。
勉強や作業に集中したいときは、外の景色に気を取られすぎない。
それでも、ふと顔を上げれば、青い空や流れる雲、夕暮れの色が目に入ってくる。
どの位置に、どの高さで窓を取るかによって、その部屋で見える景色も、過ごす時間の質も大きく変わります。
LDKと一体でありながら、少しだけ独立した「自分の場所」になる。
家族の気配を感じながらも、自分の作業に集中できる。そんなちょうどいい距離感の場所です。
今回のM様邸では、基本間取りプランの段階から、石神井川緑道とのつながりを大切に考えました。
玄関を開けたときの視線。
階段越しに見える緑。
キッチンに立ったときの景色。
家族の気配を感じられるLDK。
そして、寝転がれる1.5帖の踊り場。
間取りは、部屋数や広さを並べるだけではありません。
その家で、どんな時間を過ごすのか。
家族がどこにいて、どんなふうに気配を感じるのか。
窓の外の景色を、どのように暮らしの中に取り込むのか。
そういうことを考えながらつくるものだと思っています。
M様邸は、まさにその考え方が形になった住まいになりました。
M様邸は、完成した建物の雰囲気もとても素敵ですが、私にとっては、最初のスケッチから完成までの過程もとても印象に残る住まいです。
最初は、より軽やかなスケルトン階段をイメージしていました。
その後、予算や施工性を考えながら、1.5帖の踊り場がある階段に変更。
結果として、ただの通路ではなく、緑道を眺めながらくつろげる場所が生まれました。
玄関を開けると、奥の緑へ視線が抜ける。
2階のキッチンに立つと、階段越しに木々が見える。
家族がLDKのどこにいても、お互いの気配を感じられる。
そんな、気持ちのいい住まいになったと思います。
家づくりや住まい探しでは、金額や広さ、間取りの表記だけでは分からない部分がたくさんあります。
だからこそ、私はこれからも、その土地の良さをどう活かすか、そこでどんな暮らしができるかを大切にしながら、住まいのご提案をしていきたいと思います。
ここまで、間取りやデザイン、暮らし方の工夫についてお話してきました。
ただ、住まいを考えるうえで、見た目や間取りと同じくらい大切なのが、家そのものの性能です。
M様邸は、もちろん高い性能を確保しています。
耐震等級3(最高等級)
長期優良住宅認定
断熱等級6(UA値 0.37W/㎡K)
気密性能 C値 0.1㎠/㎡
耐震等級3は、消防署や警察署など、災害時の活動拠点となる建物に求められる最高等級です。
断熱等級6は、2022年に新設された等級で、現行の省エネ基準(等級4)を大きく上回る水準です。UA値0.37W/㎡Kは、HEAT20のG2グレードに相当します。
そして、気密性能を表すC値は0.1㎠/㎡。
家全体のすき間を合計しても、ハガキ1枚にも満たない、ごくわずかな数字です。
気密性が高いと、計画的な換気がきちんと機能し、すき間風による温度ムラや結露のリスクも抑えられます。
夏は涼しく、冬は暖かい。
家のどこにいても温度差が少なく、光熱費も抑えられる。
そして、地震に対しても安心して暮らせる。
こうした性能は、住んでから何十年と続く快適さや安心感を支える、住まいの土台です。
意匠や間取りの良さは、性能という土台があってこそ、長く価値を保ち続けます。
富士屋不動産は、不動産売買の仲介を行う不動産会社です。
設計事務所でも、工務店でもありません。
ただ、私自身はこれまで住宅設計、施工管理、土地仕入れなど、家づくりに関わる仕事を経験してきました。
そのため、単に「駅から近い」「価格が合う」「何LDKある」という条件だけで住まいを見るのではなく、その土地の良さをどう活かせるか、どこに窓を取ると気持ちがいいか、家族がどのように暮らすかまで考えながらご提案しています。
今回のM様邸も、石神井川緑道という立地の魅力をどう暮らしの中に取り込むかを考え、玄関からの視線、階段の位置、キッチンから見える景色、1.5帖の踊り場の使い方、そしてトイレやお風呂まわりの細かな工夫まで含めてご提案しました。
不動産会社として物件を紹介するだけでなく、建物の性能、間取り、暮らしやすさ、そしてその土地ならではの魅力まで一緒に考える。
そこまで踏み込んで住まい探しをサポートできることが、富士屋不動産の強みです。



